ギター、ベース、ドラム以外の音色全てを担当することになりがちなキーボーディスト。
プロの現場みたいに要塞のごとく鍵盤を並べたり

 

生の弦楽団やホーン隊、なんだったらオーケストラが入っちゃったり



が難しい環境では、とにかく手が足りない!なんなら足まで酷使しても足りない!
という問題に直面するのが日常です。もちろんジャンルにもよりますが。

同期を使うのはまだ実現可能な範囲ですが、メンバー全員がクリックに縛られることになるし、そもそもやり方がよく分からない!機材もない!という理由で実際に機材を用意して打ち込みを行うのもキーボーディストになりがちです。ことごとく逃げ場がない。

今回はそんな音色数が多い曲の手弾きでの対処法について。

ここで紹介するからには誰でも再現できることを大切にしたいので、大体のスタジオの標準セッティングである「61鍵シンセ+ピアノ」を基本に考えます。



とりあえずプロの演奏を観てみましょう



キーボーディスト(ダン・ヒューイット)だけを写した20分超のライブ映像。
1曲あたり1分程度に編集されていてすごく内容が濃い。全21曲。音量もバッチリキーボードメイン。
曲のタイトルと一緒にその曲で使っている音色のほか、ペダルにフィルターアサインしているよ!みたいなことも書いてあります。

本人のYouTubeの投稿文を見る限り、ドラムとベース、たまにドラマーが横のノートPCで流している同期以外は全てキーボーディストの手弾き。
音色は全て上段のKronos(61鍵)のもので、下段のピアノP-80はKronosとMIDIで繋いでコントローラーとして使用しているそうです。
各音色を巧みに弾きこなしつつ、コーラスまで…完璧な職人です。

動画を観ると何かすごい色々やってそうですが、実際はスプリット、レイヤー、ペダルやつまみを使ったコントロール、鍵盤の端っこにSE、みたいなどんなシンセでも可能なことの組み合わせです。鍵盤2台でここまでできるよ!っていう貴重な映像ですね。

とはいえ、急にこんな海外のガチプロ映像を真似ろと言われてすぐにできるなら、そもそもこんな記事は読まなくて良いのです。段階を踏みましょう。

順を追って考えて見ます



今回例として使う曲はBiBiのsoldier gameです。
最近たまたま弾く機会があって、題材にも丁度良さそうだったので。ラブライブは凛ちゃんが好きです。

1. まずは楽曲分析

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・ボーカル、コーラス
楽曲のメイン。音域は一般的な女性ボーカル。メロディの音数はそこまで多くないけど、サビに入った途端に16分音符が増えて一気に勢いがつく。

・ベース
ボーカルの次くらいにグイグイ来てますね。ラインがすごく歌っている。2サビ後にソロもあり。

・ドラム、パーカッション
細かいフィルが多くてリズム全体としては手数も多め。パーカッションがいない場合、ドラマーがパーカッションのおいしいフィルもさらってきそう。

・ギター
1曲通してひたすらワウでアタックを抑えつつカッティング。音量は控えめだけど刻みは結構細かい。

続いてキーボード、といきたいところですが。ここで一旦考えます。

コピーとなると真っ先に自分の担当楽器を集中して聴きにいきたくなりますが、その前に他の楽器が何をしているのかをきちんと把握して整理しておきます。これはそのまま、自分が弾く部分を探すという作業です。

作編曲にも通じるお話ですが、各パートやフレーズには全て意味があります。
ざっくりとドラムがリズム、ベースが低域、ギターが中高域、ボーカルがメロディというのは簡単ですが、そこからもう一歩踏み込んだ部分ですね。

キーボードは何でもできる楽器なので、他が担当してくれている役割にあえて被っていかなくても空いたポジションに入れば良いのです。

2. どこが空いてる?もう少し突っ込んで考える

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・ボーカル、コーラス
メインのメロディ。コーラスは追っかけ等はなくハモり。イントロ、間奏、アウトロは完全に抜ける。
→イントロ、間奏、アウトロは他の楽器でメロディが欲しい。

・ベース
グイグイ来ている=少し強気に中低域辺りまで出してもらっても良さそう。ただ曲頭、2Aなど一瞬抜ける箇所がある。
→コードの積み方、イコライジングを工夫して中低域を少し広く空ける。ベースが抜ける箇所は一瞬ルートを補う必要あり。

・ドラム、パーカッション
フィル多め。ハットが基本閉じていて全体的にタイト。
→リズムのアタックに被り過ぎないよう、特にフィルの入る部分では鍵盤側が避ける。余韻が少なめなので全体を包むような音が欲しい。

・ギター
ワウカッティング=中域のアタックはドラム、パーカッションに任せつつ、コード感とリズム補強。
→コードはあくまで補強、他にしっかりコード感を出すパートも欲しい。

太字になっているのが残りのキーボードで注意する部分、補うべき部分です。あとはこれを考慮しつつキーボードパートを構築していきます。

まとめると

・ボーカルが抜ける部分のメロディ
・ベースが抜ける部分のルート(低域を補うよりもコード感の維持)

・白玉系(2分音符以上)のコード
・ボーカルより上(奥)の音域での裏メロ

以上をキーボードが担当すると良さそうです。

3. 原曲のキーボードパート

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ここで初めて、キーボードが担当しそうな音色に注目してみます。
この曲ではピアノ、ブラス、ストリングス、イントロのベル、SE(上昇音)ですね。

ちなみに、普通に音色数が少なくて手が足りる場合は1.2を飛ばしてここから始めても問題ないといえばないです。ただ楽曲の仕組みを理解しておくと音作りにも反映させられるので、他パートの把握は簡単にでもしておいた方がいいです。

・ピアノ
ある程度リズムは刻みつつも、基本はコードを伸ばす。ベースが抜ける部分ではしっかりルートも出してコード感を維持。

・ブラス
ボーカルに対する合いの手的なフレーズや裏メロ。ストリングスと絡んでイントロ、間奏、アウトロでのメロディ。

・ストリングス
全体を包み込むような音色。曲頭と2A以外ではずっと鳴っていて、意外と上モノの要。ブラスと一緒にボーカルが抜ける部分のメロディや裏メロも担当。

・ベル
曲頭の簡単なメロディ。ピアノのトップノートでもしっかりメロディができているので、ライブではさほど重要ではないかも。

・SE(上昇音)
イントロのベース&ドラムが入るきっかけ。楽曲全体の助走的な役割。

こんな感じでしょうか。見事に他パートの空きをカバーしたポジションに収まっていますこのアレンジの意図を汲み取って、鍵盤に収めていきましょう。

4. 弾くところをまとめる

KeyLine

・上段 ストリングス+ブラス

まず外せないのはイントロや間奏でメロディも担当するストリングスとブラス。
特にボーカルが抜ける部分では弾かないとすっぽり抜けた印象になってしまいます。

ボーカルに絡みにいくのと同時にストリングスとブラスでもお互い絡んでいたりするので、腕に自信のある方ならギターにコード感や中域を完全に任せて、両手でそれぞれのフレーズをしっかり弾きにいってもいいと思います。

今回はストリングスとブラスの音色を混ぜて上段のシンセに割り振り、右手で弾きます。
基本はストリングス:ブラス=7:3ぐらいの割合で、アサインペダルを深く踏み込むほどブラスが前に出るような設定。
フレーズはストリングスとブラスそれぞれのおいしいところを拾いつつ、きちんと両方の役割を果たせるように組み立てます。詳しくは後ほど。

・下段 ピアノ

これは左手でただコードを伸ばしているだけでも十分です。
この曲では中域に色んなアタックがひしめき合っているので、むしろあまり動かさない方がいいです。

ストリングスとブラスを混ぜて弾く分、ピアノにも包むような役割を持たせます。エレピをメインにしつつ、薄くアコースティックピアノ、シンセベル、スウィープ系のパッドを足しました。

ベースが抜ける部分では両手をピアノに持ってきてしっかりルート+和音。特に落ちサビでは急にベースラインがなくなるとボーカルが歌いづらくなってしまいます。

・iPod イントロ

イントロのベルとSEも仕込みました。ついでにパーカッションも。これはDAWで打ち込んだものをWAVなりMP3なりに書き出して、曲の始めに再生するだけです。
サンプラーを用意してそこに入れてもいいですが、曲頭に流しきりで使うだけなら音楽プレイヤーでも十分。自動で次の曲に進んだり、リピートしたりしないように注意です。



最初のカウントにスクフェスの効果音を使っているのはちょっとした遊び心と演出です。おいしい部分は取り入れていきます。

これで音色の選択、鍵盤への割り当ては完了です。
各音色もそれぞれ細かくエディットしているのですが、具体的な作り方まで書き出すと長くなるのでそれはまた別の機会に。

5. 各音色の音量バランス、奥行きを整える

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これで演奏前の仕込みは最後。
各音作りを追い込むよりも、実はここが一番大切だと思っています。
バンド全体のクオリティにも大きく関わってくる部分。

ここで使うのは主にミックスのテクニックです。ときには30分ステージで10種類以上にもなる音色をきれいにまとめつつ、他のパートとも共存する必要があります。

ギターやベースが大きい場合はPAさんの方でメインスピーカーを抑えればある程度コントロールできますが、鍵盤の左右でスプリットされた音のバランスが悪いとどうしようありません。そうなると大きい音に合わせられ、小さい方の音は全く客席に届かなくなってしまいます。

・ストリングス

音量は意外と大きめで出しています。
その分マスキングしないようにローを大胆にカットした上で、コンプでアタックを抑えます。

Comp
画像はDAWのプラグインですが、パラメータは基本どれも共通です。

コンプは音量をそろえるためにも使いますが、奥行きのコントロールにも使えます。
アタックタイムを最速、かつリリースタイムを遅めにするとコンプがかかりっぱなしの状態になるのですが、このままスレッショルドを下げていくとどんどん音が小さくなっていくのが分かると思います。これがどんどん奥にいっているということです。

この状態でアウトプットレベルを上げていくと、奥行きはそのままできちんと聞こえるレベルまで音量を戻してあげられます。上げすぎるとまた前に来てしまいますが。
これにディレイ、リバーブも併用して奥行きを作っていきます。ストリングスは全パート中でもかなり奥の方に置きました。

・ブラス

こちらは音量的には控えめ。少しオーバードライブをかけて倍音を作ることで耳に届きやすく、バンド内でも馴染みの良い音にしています。

ブラスが印象的な曲なので、奥行きはボーカルよりも少し後ろくらい。他のパート、特にボーカルの邪魔をしないようにアタックは抑えつつ、空間系を他よりも浅めにして調整しています。
管楽器も結構コンプで大胆につぶしてしまっても良いのですが、リリースタイムが長いと歯切れの良さが失われるので注意です。

・ピアノ

イントロや落ちサビではメインの伴奏を担当するので、これも意外と音量は大きめで出しています。ストリングスと同じくらい。
ライブではピアノのみになる部分はボリュームペダルでわずかに音量を上げたりしますが、後に紹介する自身の演奏動画ではサボってますねこれ…。

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奥行きはブラスよりも奥、ギターよりも少し前くらい。
メインのエレピのアタックを抑えつつ、薄く重ねたアコーティックピアノ、シンセベルのアタック成分を強調しています。これで基本は引っ込ませつつ、オケが薄くなる部分ではしっかり出てきます。

それでは、ようやく準備が整ったところで弾いてみましょう!

弾きました



セッティングはダン・ヒューイットとほぼ同じ。上段がKronosからM3になっただけで、下段のピアノはM3の音源を鳴らすMIDIコンとして使っています。

たまに上段シンセのパッドを押していますが、そこで鳴らしているのはストリングスの和音とブラスのグリスアップ、アウトロ前のウインドチャイムで、鍵盤の端に一瞬だけ使う音を仕込むのと同じ意味です。

演奏動画ということでキーボードの音をかなり大きめにしつつ全てセンターに置いているのですが、それでも奥行きを調整したり音域を済み分けたりしている分、他のパートも全て聞き取れると思います。

ポイントは上段のストリングスとブラスのフレーズです。
ボーカルのメロディを邪魔しないというのはもちろん、意図的に2拍目、4拍目にブラスのアタックが来ないようにしています。1サビ後の間奏とかちょっとやり過ぎなくらい。

これはスネアのアタックをきちんと立たせるためです。曲的にも結構ファンクっぽいノリがあるので、ベースと一緒にリズムでグイグイいって欲しいなと。
あとはフィルもしっかり粒が見えるように、フィルの入る箇所では基本伸ばしています。Bメロ前は手癖で弾いてしまっていますが、ここはよくない例ということでひとつ。

ピアノはほぼ白玉。ベースが抜けるイントロと落ちサビのみ両手で弾きにいっています。下から上へのグリスが好きなので落ちサビの最後に差し込みました。

あとは隠し味に、フットスイッチでサビ頭等の展開時にSEを鳴らしています。これは原曲のブラスの代わりです。
フットスイッチでなくてもこれも鍵盤の端に仕込んだり、最近のシンセによく付いているコードメモリー機能を応用したりで再現できます。

ご清聴ありがとうございました

kuma

長い記事にお付き合いいただいてありがとうございました。とりあえず癒されそうな白熊でも置いておきます。

それでは!